けろさん、テレレってわかる?
気の利く新人さん
「期間工の寮生活、健康で食欲があるのはいいけれど」岩本さんが大量の食糧と共にワンルームマンションに引越して数日後、寮に新人さんが来ることになりました。
たまたまわたしは夜勤明けでお休みだったので、どんな人が来るかと待っていました。
るりこさん(仮名・42歳)はわたしと同じ歳なのに、お菓子の包みをわたしに差し出して「どうぞよろしくお願いします」って頭を下げてくれたんです。
期間工に来てからほぼほぼ人間扱いされていなかったわたしはるりこさんの腰の低さに感動しました。
るりこさんはわたしと同じ時間帯の仕事の契約と言っていて、その日は午後8時から夜勤の仕事に合流すると言っていたので、わたしも予定がなかったので夕方までるりこさんと他愛のないことをお喋りしていたんです。
やがてるりこさんは出勤して、わたしは少し仮眠を取りました。
こんなとこ、人間の働くとこじゃない
午後10時、物音がしたので様子を見に出るとるりこさんが制服を脱ぎ捨てて着替えているところでした。
どうしたの?と声をかけると怒りの早口で、「やめてやる、こんな仕事。女工哀史じゃん。こんなとこ人間の働くとこじゃないよ。明日あたし東京に帰るから」と捲し立てました。
そうなんだ、それは仕方ないよね。とわたしは言ったんですけれど、すぐに帰ることのできる、るりこさんが羨ましかったです。
言うだけ言うと気が済んだのか、るりこさんはニコニコしながら「あたし今からちょっと仕事するね」と言うと持参していたノートの1ページに大きくマス目を書いて、どこかに電話をしてから「まぁ見てて」と言いました。
彼女はベテランのテレレさん
少し待って誰かからか電話が来てるりこさんは楽しそうに嬌声を上げて1時間近く電話をしていました。
電話が終わると真顔に戻り、「けろさんテレフォンレディって分かる?あたしねこれでも12年やってるテレレなの」と言いました。
次にかかってきた電話でるりこさんはしゃがれ声を出して2時間ほど話をして、「今のは60代の料亭の女将。さっきのは女子大生。こんなことにお金使って、男ってバカよね」と大笑いしているんです。
その後も次々と電話は来ていました。
合間合間にテレレの仕事をわたしに説明してくれましたが、1分男性と会話するごとに報酬が発生して、るりこさんはそれを日払いにしているので毎日がお給料日なんだそうです。
「けろさん、仕事ないなら沖縄帰ったらテレレやりなよ。稼げるよ簡単に」と言っていました。
まとめ
実際にテレレをするしないは別として、るりこさんは人気のあるテレレさんだったんじゃないかと思います。
「あー疲れた!今日は仕事終わり!」と彼女が敷いてあった布団に転がり込んだのは朝6時のことでした。
るりこさんは仮眠を取ってから、お昼過ぎに東京に帰って行きました。
「ここの仕事が終わってから東京に寄るなら一緒に事務所でテレレしよう、お菓子食べ放題だし、シャワーも使えるからさ。東京に親戚ができたと思っておいでよ、ね」と言って去って行きました。
テレレの仕事にはそれほど関心は持てませんでしたが、期間工に来てからと言うもの人間離れした人たちに囲まれていたので、素朴なるりこさんの人間味ある振る舞いには感謝しています。
1日だけでも生き返った思いがします。
そして翌日の寮の玄関にはお隣の住人の方から「静かにしてください!夜中騒ぐと迷惑です!」と書かれたメモが貼られていました。
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